以前、当ブログで、
「善き人のためのソナタ」 今まで観た映画の最高峰かもと書いた「善き人のためのソナタ」で主演をしていた
ウルリッヒ・ミューエが主演している映画です。
「善き人のためのソナタ」の演技で心を打たれたウルリッヒ・ミューエが主演しているという理由だけで借りたのですが、ヒトラーの出てくる映画としては珍しく、(というか個人的には初めてだと思う)ユーモラスな感じでした。ヒトラー及びナチスをシニカルな視点で笑い飛ばすことで批判し、ヒトラーを徹底して弱い人物に描くことで凡人化し、威厳を地に落としているような印象で、ネオナチの連中が観たら怒髪天を衝く、といった感じでしょう。
こういう描き方は、ストレートに怒りをぶつけたり、冷酷無比な人物像を描いたりするより、ナチス信奉者を憤慨させるにはより効果的でしょう。
映画は、主人公の
アドルフ・グリュンバウム教授(ウルリッヒ・ミューエ)のナレーションから始まる。そして、そのナレーションの最後で、「私が今から話すことは真実だ。
真実すぎるため、歴史の話には出てこない。」という台詞。これは受けた、正にそうだよな、と思った。
ただ、この映画自体はフィクションで実話ではありません。主人公も架空の人物。ただ、ユダヤ人ではなく、ドイツ人だけど、ヒトラーに演説の指導をしたポール・デヴリエンという人がいたようですね。
かつて世界的なユダヤ人俳優であったグリュンバウム教授が、ナチスの宣伝大臣、「プロパガンダの天才」と謂われた
ゲッペルス博士(シルヴェスター・グロート)の命を受け、敗戦が濃厚になった1944年12月、自信を失っている
アドルフ・ヒトラー(ヘルゲ・シュナイダー)の教師役を引き受けます。1945年の年明けに100万人の大聴衆を前に新年の演説をするヒトラーに演説指導をするためです。
そして、様々な訓練、呼吸法やら発声、演技指導などをするのですが、その中で最も笑えたのは、犬のポーズでワンワンと吠えさせる箇所。すると飼い犬がヒトラーにまたがって、後尾のポーズ。ほんの一瞬ですが、映画館、爆笑だったろうなぁ。
他にも笑える箇所は多くあり、あまりにも空疎なハイル・ヒトラーの連呼や、ベッドシーンでのヒトラーの役立たずな息子ぶり、弱さや甘えを見せる人間味溢れるヒトラー。官僚的な融通の利かない書類申請重視の様子。戦地から帰還した
ヒムラー(ウルリッヒ・ノーテン)の右腕のギプスは、ハイル・ヒトラーのポーズのまんま固定化されていたり、散髪していた女性が謝ってヒトラーの口ひげを半分だけ剃り落としてしまったり、で、演説当日は、部下のちょびひげを剃って、貼り付け。ラストの演説の場面では、もう、監督やりたい放題ですよ(笑)。
公式サイトもまだ、ありました。ユダヤ系スイス人という、
ダニー・レヴィ監督のインタヴューもありました。