原題も同じ、主人公の女性の名前です。2004年のイギリス映画。舞台は、1950年のイギリス。
ベラ役は、
イメルダ・スタウントン。夫と一男一女、つましい生活ながらも愛情に満ちあふれた幸せな家庭の主婦。家政婦の仕事をしていて、困った人がいたら手を差し伸べずにはいられない、慈愛に満ちた中年女性。
最近の映画にしては、非常に分かりやすい構成でした。最初にヴェラが登場し、ヴェラの人となりを観る人に伝え、その後、帰宅して家族が登場、次に家族のそれぞれが、どういう仕事をしているかを映像で現す。時系列的に順を追っていて、回想シーンが入り、過去と現在が行ったり来たり、ということもない。
映画をあまり見慣れてない人でもきわめて分かりやすいオーソドックスなつくり。しかし、ヴェラ役のイルメダ・スタウントンの演技は、凄い。こんなに演技のうまい俳優がいたのか、という程の驚きでした。
彼女は、家族には秘密で、人助けのために望まぬ妊娠をした女性の堕胎を行っていたのです。その堕胎を希望する女性をヴェラに紹介する金の亡者のような女性リリーは、たんまりとお金を取っていたのですが、ヴェラは、一銭たりとももらっていません。純粋に人助けのため、と思ってやっているのです。
しかし、ある日、パメラという娘が、ヴェラの行為により(医師の話によれば)、生死をさまよう羽目になる。ヴェラの娘エセルと孤独な青年レジー(二人ともあまりにも地味な性格)が婚約し、クリスマスに祝っている時、刑事が訪れ、逮捕されてしまう。
刑事が来た時、すぐに事情を察し、声も出ず、固まってしまったヴェラ。その時の演技も凄くリアルだった。
家族の驚き、長男シドの反発。夫はそれでも妻のことは許す、という。
ここでアメリカ映画だったら人徳があり、評判のいいヴェラのため、地域の人の署名を集め、少しでも罪を軽くするため、請願運動などをして、最後はお涙頂戴的な安っぽい感動になりがちですが、淡々とした重厚な流れで進むこの映画、やはり、そうではありませんでした。
ヴェラが家政婦をしている4つの家庭、そこの金持ち連中、誰も法廷に出て、ヴェラの擁護はしてくれない。判決も予想していたものより遥かに重く、そして刑務所の中のヴェラが映り、家族は呆然と・・・。その重たい沈鬱なムードの中、映画は終わってしまいます。2年半、という実刑判決。太陽のような明るいヴェラを失い、この先、残された家族3人はどう生きていけばいいのか。
ヴェラの正反対の人物として、堕胎希望者との仲介者役、金の亡者リリー、ヴェラの義弟の妻で、自分本位のジョイスが効果的に描かれています。
1950年のイギリスで、妊娠中絶に対して、一般的にどのように考えられていたのか知りませんが、どうもこの映画を観ていると、医者の助けを借りるとしても、とてもほめられた事ではなかったようです。