2007年の映画、ようやく借りることができました。原題は、"The Visitor"で全く違いますが、この邦題はなかなかいいと思う。僕も昔、ジャンベ(ジェンベ、ジンベ)を持っていたので、この映画はすごく興味がありました。
主演のウォルター役の
リチャード・ジェンキンスは、名前すら知らなかったですが、名脇役として知られた人だそうで、本作が初主演とのこと。
公式サイトを見ると、僕の観た映画では、アル・パチーノとエレン・バーキンの「シー・オブ・ラブ」やコーエン兄弟の「バーバー」にも出ていたようです。
映画は、妻を亡くした孤独な大学教授ウォルターが、2つ持っているアパートの一つ、ニューヨークのアパートに戻ると、そこに見知らぬ夫婦が・・・。しかし、その夫婦も他人にそそのかされて住んでいただけで、悪い人間達ではなかったのです。
そんな出会いがきっかけで、その夫婦のシリア人の亭主、タレク(
ハーズ・スレイマン)からジャンベを習うウォルター。スレイマンは実際はレバノン人だそうです。奥さんはセネガル人、・・って設定逆だろ、何でシリア人がジャンベだよっ、という突っ込みはさておき。その奥さん、ゼイナブ役の
ダナイ・グリラは、両親がジンバブエ人でアメリカ生まれだそうで、そして、タレクの母親、モーナ役の
ヒアム・アッバスは、
「パラダイス・ナウ」や
「シリアの花嫁」という映画で観て、その凛とした演技に感動したのですが、本作でもその凛とした美しさは健在。彼女が出ると本当に画面が引き締まります。ますます、ファンになりました。で、彼女は本当はイスラエル生まれ、ちゅう、何ともややこしいキャスティング。
ジャンベは今や、日本でも老人ホームなどでボランティアでジャンベ奏者が慰問し、みんなで一緒に叩くことで、笑いを失った老人達が笑顔を取り戻したり、というヒーリング的な側面も活況を浴びています。
本作でもタレクに誘われ、公園(たぶんセントラル・パークでしょう)で、10数名のジャンベ奏者達と、一緒に叩くシーンが出てきますが、最初は参加することに躊躇しながらも、一緒になって叩き始めると満面の笑みを見せるウォルター。叩いたことがある人ならば、絶対にウォルターの気持ちが分かるシーンでしょう。
最初は暗い雰囲気だった映画が、この先、明るくなっていくのかな、と思うシーンだったのですが、その後、地下鉄で逮捕されてしまうタレク、不法滞在だったのです。
ミシガンに住む、母親のモーナもニューヨークに出てきて、まあ、色々とあるわけですが、ある日、ウォルターがモーナとの食事中、自分はもう20年も変わらない退屈な講義をしている、仕事らしい仕事などしていない、忙しいふり、仕事をしているふりをしているだけだ、という独白。このシーンはグッと来たなあ。そして、日本にもこんな大学教授、大勢いるよなあ、と思ってしまいました。
タレクの奥さんゼイナブが、手作りのミサンガ(?)のような物を路上で売っている時、アメリカ人女性に「国はどこ?」と聞かれ、「セネガル」と答えると、「ケープタウンに近いの?」と聞かれ、隣で売っている男に、「イスラエルとパレスチナを混同する奴もいるよ」と言われ、お互い苦笑するシーンも印象的でした。自国以外には全く興味を示さないアメリカ人に対する、監督の痛烈な批判が込められているようでした。
そして、映画の中でもセリフとして語られますが、911以降、移民に対して閉鎖的になったアメリカ、これでいいのか、という問題提起の意識も感じられました。
派手さのない、渋い映画ですが、本作が長編2作目という、
トム・マッカーシー監督、今後、注目したいと思います。
ラスト・シーンでは、タレクが逮捕された地下鉄の駅で、ジャンベを叩きまくるウォルター。決してうまくはない我流のままでしたが、癒しのドラムではなく、怒りのドラム、あるいは悲しみのドラムなのか、炸裂してました。
そういえば、
フェラ・クティの音楽が好きな人には、プチ・サプライズ(?)もありますよ。
監督のインタヴューもありました。